いつ降りるのか予測はむずかしい
日本で暮らす外国人にとって、在留資格(ビザ)は生活の基盤を支える最も重要なものです。その許可がなければ、日本での居住はもちろん、仕事や家族との生活も立ち行かなくなります。このため、在留資格の更新や変更の申請を提出した後、「いつ結果が出るのか」「早く許可が下りないだろうか」という不安に駆られるのは、ごく自然なことです。在留資格が1年、3年、5年といった期限付きであり、永住者でない限りその期限は常に意識しなければならないからです。
この不安をさらに増幅させるのが、在留資格申請の審査期間が全く予測できないという現実です。数週間で結果が出ることもあれば、数か月、場合によっては1年以上もの長期間にわたることも珍しくありません。なぜこれほどまでに審査期間が不透明なのでしょうか。その理由は、日本の行政手続きにおける法的枠組みと、入国管理局の業務の特性に深く根ざしています。この不確実性は、申請者の精神的な負担を大きくします。いつ結果が出るか分からないため、海外への渡航計画は立てられず、転職や引っ越しといった人生の大きな決断も保留せざるを得なくなるのです。生活の軸足が宙に浮いたような心理状態は、仕事や人間関係にも少なからぬ影響を及ぼします。
「標準処理期間」とは
多くの行政手続きには、申請から結果が出るまでの目安となる期間として「標準処理期間」が定められています。これは行政手続法第6条に規定されており、行政庁がこの期間を定めることは「努力義務」とされています。標準処理期間が定められている手続きであれば、申請者はある程度の見通しを持つことができ、計画を立てやすくなります。
ところが、在留資格の申請に関しては、この標準処理期間という概念は基本的に適用されません。なぜなら、日本の出入国管理に関する手続きは、行政手続法第3条第1項第10号により、その適用が除外されているからです。この適用除外は、国の主権に属する外国人管理という性質上、迅速かつ柔軟な対応が求められるため、一般的な行政手続きとは異なる扱いが必要であるという考えに基づいています。国家の安全保障や治安維持、公衆衛生といった観点から、外国人の入国・在留は厳格に管理されるべきであり、個々の事案に応じて、時間的な制約なく慎重な審査を行う必要があるとされているのです。
したがって、入国管理局(以下、入管)には、審査期間を示す法的義務すらないのが実情です。この事実こそが、在留資格申請の審査期間が「全くわからない」と感じる最大の理由です。入管側は法的に期間を明示する義務を負っておらず、そのイニシアティブは完全に国、つまり入管に握られています。この点は、国籍者である日本人にはなかなか理解の及ばない、在留外国人特有の辛い現実だと言えるでしょう。
「在留審査処理期間」とは
それでは、申請者は全くの手掛かりもなく待つしかないのでしょうか。幸いなことに、入管では「在留審査処理期間」という情報をウェブサイトで公表してくれています。これは、入管が親切心から提供してくれている、あくまでも参考情報です。この「在留審査処理期間」とは、過去数か月の間に完了した案件の平均処理期間を算出したものです。
ここで重要なのは、「在留審査処理期間」が「標準処理期間」とは全く異なるということです。標準処理期間が将来の処理に対する「目安」や「目標」であるのに対し、在留審査処理期間はあくまで「過去の実績」に過ぎません。したがって、この平均日数を大幅に超過することも多々あります。この情報を安易に「自分のケースもこの期間で終わるだろう」と解釈するのは危険です。個々の案件の複雑さ、その時の入管の混雑状況、審査官の判断などによって、実際の審査期間は大きく変動します。特に、年末年始や新学期、新年度が始まる時期など、申請が集中する期間は処理期間が長期化する傾向にあります。
審査期間に影響を与える要因
では、どのような要因が審査期間に影響を与えるのでしょうか。まず第一に、申請内容の「複雑さ」です。提出書類に不備がないか、申請内容に疑義がないかなど、審査官が慎重な確認を要する案件は、当然ながら時間がかかります。例えば、転職後の在留資格変更申請では、新たな勤務先の事業内容や申請者の職務内容、給与の妥当性などが厳しく審査されます。
また、在留状況や過去の経歴に問題がないかどうかも重要な要素です。例えば、過去に在留期間をオーバーステイしてしまったり、犯罪歴があったりすると、審査は非常に慎重になり、関連機関への照会などで大幅に時間がかかることがあります。さらに、税金の未納や国民健康保険料の滞納といった問題も、日本の法令を遵守しているかどうかという観点から、審査に影響を与える可能性があります。これらの問題は、入管が関連機関に照会を行う必要が生じ、審査期間が長期化する主要な原因となります。
さらに、審査の過程で追加書類の提出を求められることもあります。これに対応する時間も審査期間に含まれます。入管側が追加書類を要求する理由や、求められる書類の内容もケースによって様々であり、その予測は困難です。
このように、審査期間は個々の案件固有の事情に左右されるため、「早く出せば早く許可される」「申請書をこう書いたら早く降りた」といった噂は、不確定な情報に基づいた憶測に過ぎません。確かに、提出書類が完璧で、在留状況に全く問題がなく、審査官から見て疑義の余地がないと判断されれば、審査は円滑に進み、比較的早期に結果が出ることは当然あり得ます。しかし、何をもって「問題なし」とするかは、審査官の専門的かつ裁量的な判断によるところが大きいため、申請者側から正確な見通しを立てることは極めて困難なのです。
まとめ
在留資格申請の審査は、申請者が置かれている状況を深く理解し、その在留の必要性や相当性を判断する、極めて専門的で高度なプロセスです。単純に書類を処理するだけでなく、時には入管が独自に調査を行うこともあります。早く結果を出してほしいと願うのは当然ですが、同時に、慎重な審査が必要な案件も存在します。権利の性質上、外国人の出入国を管理するという国の強い裁量権があるため、申請者はある程度の不確実性を受け入れざるを得ないのです。
結局のところ、在留資格の申請がなされたら、いつ結果が出るのかは入管の審査に委ねるしかありません。唯一確実なのは、在留期間の満了、または申請後に出国準備のために認められる特例期間(通常は在留期限から2か月)までには、必ず何らかの応答がなされるということです。この期限までに許可か不許可かの結果が通知されるため、申請者は生活の基盤を維持しつつ、その連絡を待つことになります。
この不確実性の高い待機期間を乗り越えるには、入管の審査を信頼し、その結果を辛抱強く待つしかありません。不確実な情報に惑わされず、落ち着いて待つ姿勢が最も重要だと言えるでしょう。